賃貸物件の退去時に問題となりやすい「原状回復義務」について、国土交通省のガイドラインに基づいて費用負担のルールや注意点をわかりやすく解説。貸主・借主それぞれの負担範囲や、トラブルを未然に防ぐためのポイントも紹介します。

賃貸物件の原状回復義務とは?
新品に戻すことではない!原状回復の本当の意味
賃貸物件における原状回復義務とは、退去時に部屋を「入居したときの状態」に戻す義務を指すものです。
ただし、これは「新品の状態に戻す」という意味ではありません。普通に生活する中で自然についてしまう傷や汚れ(通常損耗)や時間の経過とともに建物や設備が劣化する現象(経年劣化)にかかる修繕費用は「毎月の家賃に含まれている」と考えられ、借主に修繕の義務はないとされています。
トラブルを防ぐための公式ルール「国土交通省ガイドライン」
かつて、賃貸物件の退去時には原状回復の費用負担をめぐるトラブルが多発していました。どこまでが借主の責任なのか、明確なルールがなかったためです。
この問題を解決するために、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、貸主と借主のどちらが費用を負担すべきか、具体的な事例を挙げて詳しく解説しています。
※参照:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
このガイドライン自体に法的な拘束力はありませんが、裁判になった際にはこのガイドラインに沿った判断がなされることがほとんどです。つまり、賃貸契約における事実上の公式ルールと言えるでしょう。契約書の内容に疑問を感じたときや貸主との話し合いで困ったときには、このガイドラインが強力な味方になります。
ガイドラインでは建物の損傷や価値の減少を以下の4つに分類し、誰が費用を負担すべきかの基準を示しています。
・経年変化:建物や設備が時間とともに自然に劣化・損耗すること
・通常損耗:借主の通常の使用により生じる損耗
・借主の故意・過失など:通常の使用を超えるような使い方による損傷
・その他:通常使用を超える損耗
普通に暮らしていて生じる汚れや傷とは
生活するために必要な行為で生じた汚れや傷を、専門的には通常損耗(つうじょうそんもう)や経年劣化(けいねんれっか)と呼びます。家具の設置による床のへこみや冷蔵庫の裏の壁が黒ずむ「電気やけ」のほか、日光が当たることで壁紙や畳の色が変わる・ゴムパッキンが古くなってひび割れるなど、時間の経過とともに自然と品質が低下するものなどが代表的な事例です。
貸主(大家)が負担する通常損耗・経年劣化とは
具体的にどのようなケースが貸主負担となるのか、ガイドラインの例を見てみましょう。
・床(フローリング、畳など)
家具の設置によるへこみや跡
畳やフローリングの日焼けによる色あせ
ワックスがけ
・壁・天井(クロス)
テレビや冷蔵庫の裏側の壁にできる黒ずみ(電気やけ)
画鋲やピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)
カレンダーなどを貼ったことによる日焼けの跡
・水回り
設備自体の経年劣化や通常使用による不具合(水栓やパッキンの寿命による水漏れ、給湯器や換気扇などの自然故障など)
・その他
網戸の劣化による破れ
エアコン(設備として付属している場合)の内部洗浄や故障による交換
鍵の経年劣化による交換
上記の例は借主が十分に注意を払っていたとしても起こるものなので、貸主負担で原状回復がなされるものとされています。
借主(入居者)が負担する損耗・劣化とは
借主の不注意や通常とは言えない使い方によって生じた損耗・劣化は、借主負担で修繕が必要です。これらの損耗を「善管注意義務違反」による損耗と言い、次のようなものが挙げられます。
・飲み物のシミや掃除不足によるシミやカビ
・冷蔵庫下のサビを放置したことで損傷した床
・引っ越し作業などで生じた引っかき傷
・借主の不注意で室内に雨が吹き込み、色落ちしたフローリング
・日常の清掃を怠って付着した台所の油汚れ・すす
・結露の放置によるカビ・シミ
・クーラーの水漏れを放置したことによる壁の腐食
・タバコなどのヤニ・臭い
・壁などの釘穴・ネジ穴(下地ボードの張り替えが必要な場合)
・借主が天井に直接つけた照明器具の跡
・落書きなどの故意による毀損
・ペットによる傷・臭い
・清掃を怠ったために発生した水回り(風呂・トイレ・洗面台)の水垢・カビなど)
・鍵の紛失・破損による取り替え
・戸建て賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
これらの原状回復にかかる費用は日常的な劣化とはみなされないため、すべて借主の負担となります。
原状回復に関しては下記のページでも詳しく解説していますので、ぜひ御覧ください。
「アパート退去費用の相場は?借主が支払う費用や抑えるコツを解説!」
主な設備の耐用年数例
建物や設備には耐用年数が定められており、退去時の原状回復割合は耐用年数も考慮して決定するのが基本です。よって、入居期間が長くなるほど借主の負担割合は減少します。ガイドラインに記載されている主な設備の耐用年数は以下の通りです。
・耐用年数5年
流し台
・耐用年数6年
エアコン
ルームクーラー
ストーブ
電気冷蔵庫
ガスレンジ
インターホン
・耐用年数8年
金属製以外の家具(書棚・たんす・戸棚・茶だんす)
・耐用年数15年
給排水・衛生設備(便器・洗面台など)
金属製の器具・備品
上記のほか、ユニットバス・浴槽・下駄箱については当該建物の耐用年数が適用されます。鍵の交換に経過年数は関係なく、紛失または交換が必要となった場合、借主が交換費用を全額負担します。
なお、畳やフローリングは耐用年数を考慮せず、損耗状況に応じて判断されるのが一般的です。
入居期間によって変わる負担割合
借主の過失で傷つけてしまった壁紙(クロス)を例に、負担割合の計算方法を見てみましょう。
壁紙の耐用年数は6年で、新品の状態から6年経つとその価値はほぼ1円になるという意味です。つまり、入居期間が長ければ長いほど借主の負担は軽くなります。
【計算例:壁紙の張替え費用が10万円、耐用年数は6年】
・3年間住んで退去した場合
価値の減少していない残りの期間は3年(6年 – 3年)
負担割合は50%
借主の負担額 = 10万円 × (6年 – 3年) ÷ 6年 = 5万円
・6年以上住んで退去した場合
耐用年数を経過しているため、壁紙の価値はほぼ1円
借主の負担額は原則として1円
このように、入居年数を考慮せずに新品への交換費用を全額請求された場合はガイドラインを基に交渉する余地があると言えます。
故意・過失による損害は別扱い
耐用年数が経過していても、借主が故意に壊したり、通常では考えられないような使い方をして損害を与えたりした場合は話が別です。入居年数に関わらず、修理費用の全額を請求される可能性があります。
よくある誤解と注意点!その請求、払う必要ないかも?
誤解1:ハウスクリーニングは必ず借主が払う
退去時のハウスクリーニング代は、本来は貸主が次の入居者を迎えるために行うものであり、貸主負担が原則です。借主が負担するのは、借主が日常的な清掃を怠ったことで通常の清掃では落ちないレベルの汚れが残ってしまった場合に限られます。
ただし、契約書に「ハウスクリーニング代は借主負担とする」という特約が明記されている場合は、支払う義務が生じるケースがあるので注意が必要です。
誤解2:契約書に書いてあれば有効である
「契約書にサインしたのだから、書いてある項目は全て守らなければならない」と思いがちですが、実はそうとは限りません。
賃貸契約では、ガイドラインの原則とは異なる内容を「特約」として定めることができます。しかし、その特約が有効と認められるには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
1.特約の必要性があり、内容が暴利的でない
2.借主が、通常の原状回復義務を超えた負担を負う旨を認識している
3.借主が、その特約による義務負担を納得したうえで契約している
例えば「退去時には理由に関わらず、部屋全体の壁紙を全面的に張り替える費用を借主が負担する」といった一方的に借主に不利な特約は、消費者契約法に違反し無効と判断される可能性があります。
賃貸トラブルを防ぐ!入居から退去まで原状回復義務TODOリスト
【入居時】重要なのは「証拠」を残すこと
退去時のトラブルの多くは、「この傷は入居前からあったものか、なかったものか」という認識のズレから生じます。これを防ぐために、入居時には部屋の状態を細かくチェックし「証拠」として記録を残しましょう。
チェックリストを作成する
部屋の部位ごとに傷や汚れの有無を記録するリストを作成します。不動産会社が用意している場合もありますが、なければ自分で作成しましょう。「壁:画鋲の跡あり」「床:〇〇に傷あり」など、具体的に記載します。
日付入りの写真を撮る
チェックリストに記載した箇所を中心に、部屋全体の写真を撮ります。スマートフォンで撮影する場合は、日付が記録される設定になっているか確認しましょう。メジャーなどを当てて傷の大きさが分かるように撮っておくと、より客観的な証拠になります。
不動産会社・大家と共有する
作成したチェックリストと写真は、入居後なるべく早い段階で不動産会社や大家さんに送り、入居前の損耗であることを双方で確認しておきましょう。メールなどで送れば送信記録が残るので安心です。
【退去時】立ち会いで慌てないためのポイント
いよいよ退去の際に行われるのが、不動産会社や大家さんと一緒に部屋の状態を確認する「退去立ち会い」です。ここで慌てないためのポイントを押さえておきましょう。
必ず立ち会う
面倒だからと立ち会いをせず、鍵の返却だけで済ませてしまうのはNGです。後日、身に覚えのない傷の修繕費用を請求されるリスクがあります。必ずスケジュールを調整し、自身の目で確認しながら話し合いましょう。
入居時の記録を持参する
入居時に作成したチェックリストや写真を持参し、それと比較しながら部屋の状態を確認します。入居前からあった傷を指摘された場合は、その場で証拠を示して説明しましょう。
その場で安易にサインしない
立ち会い後は「原状回復費用負担に関する合意書」などの書類に署名を求められます。提示された内容に少しでも疑問や納得できない点があれば、その場でサインをしてはいけません。「一度持ち帰って検討します」と伝え、内容をしっかり確認する時間をもらいましょう。一度サインしてしまうと内容に合意したと見なされ、後から覆すのが非常に困難になります。
【見積もり確認時】高額請求?と思ったら
後日送られてきた見積書を見て「高額すぎるのでは?」と感じたら、以下のステップで対応しましょう。
1.見積もりの詳細を確認する
工事箇所・単価・数量などが具体的に記載されているか確認します。不明な点があれば、不動産会社に説明を求めましょう。
2.ガイドラインと照らし合わせる
この記事で解説した「貸主負担」に当たる項目が含まれていないか、耐用年数が考慮されているかなどをチェックします。
3.交渉する
ガイドラインを根拠に見積もり内容の不当な点を指摘し、貸主側と交渉します。
4.専門機関に相談する
当事者間での解決が難しい場合は、国民生活センターや消費生活センターなどの専門機関に相談しましょう。無料でアドバイスをもらえたり、場合によっては間に入って交渉してくれたりするケースもあります。
退去時の心配を減らすには信頼できる管理会社選びが大切
退去時のトラブルを防ぐための知識や方法について解説してきましたが、最も安心なのは「そもそもトラブルが起きにくい信頼できる不動産会社」が管理する物件を選ぶことです。
入居者への手厚いサポート
当サイトを運営するテクトピアでは、入居者様が安心して快適な生活を送れるよう、入居から退去まで一貫したサポート体制を整えています。退去時においては、国土交通省のガイドラインに基づいた明確なルールで原状回復費用を査定。立ち会い時には一つひとつ丁寧に説明し、納得いただいたうえで手続きを進めますので、初めての退去で不安な方もご安心ください。
関東・中部・近畿地方に拠点を持つ総合建設会社
テクトピアを運営するのは、関東・中部・近畿地方を基盤とする総合建設会社の株式会社クラストです。自社で設計・施工した高品質な賃貸物件を直接管理・運営しているため、建物を知り尽くしたプロフェッショナルによるきめ細やかなサービスを提供できるのが強みです。
豊富な物件情報を提供
シングル向けからファミリータイプまで、多様なライフスタイルにお応えできる豊富な物件を取り揃えています。耐震性や断熱性といった基本性能はもちろん、デザイン性や住み心地にもこだわった物件ばかりです。
賃貸の退去トラブルを防ぐために最も重要なのは、「正しい知識を持つこと」と「入居時に部屋の状態を記録しておくこと」の2点です。この記事を参考にしっかりと準備をして、気持ちよく新生活をスタートさせましょう。
これから安心できるお部屋探しを始めるなら、ぜひ「テクトピア」にご相談ください。
まとめ
賃貸物件の原状回復は「新品に戻す」のではなく、「借主の故意・過失による損耗を元に戻す」という意味です。普通に生活していて生じる汚れや経年劣化は原則として大家さんの負担で、このルールは国土交通省のガイドラインで明確に記されており、トラブルを防ぐための重要な指針となります。
退去時の高額請求といったトラブルを避けるためには、入居時に部屋の状態を写真などで記録し、退去立ち会いではその記録を基に冷静に話し合う姿勢が大切です。万が一、納得のいかない請求を受けた場合は安易にサインせず、ガイドラインを根拠に交渉したり、消費生活センターなどの専門機関に相談したりしましょう。
そして何より、入居者との信頼関係を大切にする管理会社を選ぶことが、安心して暮らすための第一歩と言えるでしょう。この記事があなたの不安を解消し、円満な退去と新しい生活への一助となれば幸いです。

監修者名
テクトピア編集部
資格一覧
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、賃貸住宅メンテナンス主任者、
少額短期保険募集人、土地活用プランナー



























