初めての一人暮らしやお部屋探しでは、聞き慣れない専門用語がたくさん出てきて戸惑うことも多いはずです。特に契約書で見かける「賃借人(ちんしゃくにん)」は、これから部屋を借りるあなた自身のことを指しています。
言葉の意味や責任を正しく理解していないと、入居後のトラブルや思わぬ出費につながってしまうかもしれません。この記事では、賃借人とは何か、入居後の義務や契約時の注意点をわかりやすく解説します。

賃借人とは?
「賃借人」の読み方は「ちんしゃくにん」です。賃貸借契約を結んで家賃を払い、部屋を借りる人のことを指します。日常会話では「借主」と呼ばれますが、契約書類ではこの用語が使われます。
なお、個人だけでなく会社が契約する法人契約の場合や英語でTenant(テナント)と表現される場合も、契約上の立場や意味は同じです。
賃借人と賃貸人の違い
賃貸契約において、賃借人と対になるのが「賃貸人(ちんたいにん)」です。金を払って借りる側か、受け取って貸す側かという明確な違いがあります。
- 賃借人(ちんしゃくにん):家賃を支払って部屋を借りる人(借主)
- 賃貸人(ちんたいにん):家賃を受け取って部屋を貸す人(大家さん・オーナー)
契約手続きやトラブル時の連絡先でもあるため、しっかりと区別して覚えておきましょう。
賃借人と賃貸人の関係性
法律上、部屋を借りる賃借人と貸す賃貸人は対等な契約関係にあります。しかし、生活基盤である住居を確保しなければならない賃借人の方が、どうしても立場が弱くなりがちです。
そのため、日本の「借地借家法」という法律では、立場の弱い借主を手厚く保護し、貸主よりも権利を強く守るルールになっています。
例えば、大家さん(賃貸人)が「もっと高い家賃で貸したいから」という理由だけで、一方的に契約を打ち切ることはできません。貸主側から退去を求めるには、例えば「建物が老朽化して倒壊の危険がある」といった極めて厳格な「正当事由」が必要です。もし、正当な理由があったとしても、さらに立ち退き料の支払いが条件となるケースも多く、ハードルは非常に高く設定されています。
つまり、一度契約すれば、法律によって「住み続ける権利」は強力に守られているのです。万が一、不当な退去を迫られるなどのトラブルになった際は、一人で悩まず「消費生活センター」や「法テラス」へ相談しましょう。
賃借人に生じる3つの義務
部屋を借りる権利が守られている一方で、入居者には果たさなければならない責任もあります。これらをサボると信用を失い、最悪の場合は住む場所を失うことになりかねません。
①賃料を支払う義務
最も基本的で絶対に守らなければならないのが、家賃を期日までに支払う義務です。
通常は「毎月27日」や「末日」など、決められた日に翌月分を前払いします。初めての一人暮らしで口座残高の管理が甘くなり、支払いが遅れると大変です。たった数日の遅れでも、何度も繰り返せば「信頼関係が壊れた」とみなされ、契約解除や強制退去の理由になります。
最近は保証会社の利用が一般的で、滞納履歴が残ると将来のクレジットカード作成やローン審査、次の部屋探しに悪影響が出るケースもあるため、自動引き落としにするなど管理を徹底しましょう。
②原状回復する義務
退去する際、部屋を入居時の状態に戻して返すのが「原状回復義務」です。ただし、普通に暮らしていてできる畳の日焼けや家具の設置跡などは、家賃に含まれるものとして大家さんが負担します。
反対に借主が責任を負うのは、不注意や手入れ不足でできた傷や汚れです。例えば、引越し作業で壁にぶつけて穴を開けた、飲み物をこぼして床をシミだらけにした、掃除をサボって水回りに頑固なカビを生やしたといったケースが該当します。
これらは「善管注意義務(管理者として注意を払う義務)」に違反したとみなされ、修繕費用を請求されます。無用なトラブルを防ぐためにも、入居時に元からある傷は写真を撮って記録に残しつつ、日頃から丁寧に部屋を使う意識が大切です。
③契約内容を遵守する義務
契約書に書かれたルールや、共同生活のマナーを守る義務です。
「ペット不可」「楽器禁止」「二人入居禁止」といった物件ごとの禁止事項は必ず守らなければなりません。また、契約書に詳しく書かれていなくても、深夜に大騒ぎをする、ゴミ出しの曜日や場所を守らない、共有廊下に私物を放置するといった迷惑行為はNGです。集合住宅では、自分では気にならない足音や生活音が騒音トラブルに発展しやすいため、夜間の洗濯や掃除を控えるなど周囲への配慮も不可欠です。
これらは契約上の信頼関係を壊す行為とみなされ、管理会社から何度も注意されているのに改善しない場合、契約違反として退去を求められる可能性があるため、ルールを守って生活しましょう。
賃貸人に生じる3つの義務
賃貸人(大家さん)側にも、賃借人が生活できる環境を提供する義務があります。ここでは、賃貸人の義務を紹介します。
①必要な修繕を行う義務
エアコンや給湯器など、最初から備え付けられている設備が故障した場合、大家さんにはそれを直す義務があります。生活に必要な設備が壊れて使えないと、家賃を払っている意味がありません。
例えば、夏場にエアコンが動かない、お湯が出ないといったトラブルが起きたら、すぐに管理会社へ連絡しましょう。これらは経年劣化であれば基本的に大家さんの費用負担で修理してもらえます。
ただし、入居者がわざと壊した場合や、リモコンの電池切れのような消耗品は自己負担になることが多いので注意が必要です。
②使用収益させる義務
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば「入居者が問題なくその部屋に住める状態にする義務」のことです。
大家さんは鍵を渡して終わりではなく、契約期間中ずっと、入居者が平穏に暮らせるよう配慮しなければなりません。例えば、雨漏りを放置して住めない状態にしたり、隣人の極端な騒音トラブルを知りながら無視し続けたりすることは、この義務に違反する可能性があります。
安心して生活できる環境を提供することは、家賃を受け取る側の最低限の責任だと言えます。
③費用を償還する義務
本来なら大家さんが払うべき修理費用などを、緊急時に借主が立て替えて支払った場合、そのお金を返してもらう権利のことです。これを「費用償還請求権」と言い、大きく「必要費」と「有益費」の2種類に分けられます。
例えば、台風で窓ガラスが割れて雨が吹き込み、大家さんと連絡がつかないため自分で業者を呼んで直したとします。この場合、建物を維持するために不可欠な「必要費」として、かかった費用を直ちに大家さんへ請求できます。
一方、古くなった設備をより高機能なものに交換するなど、物件の価値を高めるために使った「有益費」は、契約終了時に価値が残っている場合に限り請求できるのが一般的です。
注意点として、急ぎでないのに勝手に修理したり、過剰なグレードアップを行ったりすると、費用が認められずトラブルになります。基本的には、何かあったら自分で判断せず、まずは管理会社や大家さんに連絡して判断を仰ぎましょう。また、立て替えた際は、領収書や修理箇所の写真を保管しておいてください。
賃借人が無断で行ってはいけない行為
賃借人は、部屋を自由に扱って良いわけではありません。無断で行うと重大な契約違反になる行為を解説します。
ペットの飼育
「バレなければ大丈夫」と安易にペットを飼うのは絶対にやめましょう。ペット不可の物件で犬や猫を飼育することは重大な契約違反です。鳴き声や臭い、抜け毛などで近隣にバレるケースがほとんどですし、退去時の立ち合いで柱の傷や特有の臭いから発覚します。
違反がわかると、即時の契約解除(退去)を求められるだけでなく、部屋全体の壁紙張り替えや特殊な消臭作業など、数十万円単位の高額な原状回復費用を請求されることになります。
最近はハムスターや爬虫類でも禁止されている場合が多いため、飼いたい場合は必ず契約前に確認し、許可されている物件を選びましょう。
原状回復が困難なDIY
おしゃれな部屋にしたいからといって、壁にペンキを塗ったり、釘で棚を打ち付けたりするDIYは、大家さんの許可がない限り禁止です。
退去時には「借りた時の状態」に戻すのがルールなので、元に戻せない加工をしてしまうと、退去時に莫大な修繕費用がかかります。最近は「貼ってはがせる壁紙」なども人気ですが、はがす際に下地を傷つけてしまうトラブルも増えています。
どうしてもDIYをしたい場合は、自己責任で行う範囲なのか、あるいは「DIY可能物件」として貸し出されている部屋なのかを事前によく確認しておきましょう。
転貸(また貸し)
自分が契約して借りている部屋を、大家さんに無断で友人や知人に貸すことを「転貸(てんたい)」と言い、民法612条で明確に禁止されています。「出張中に友達に貸して家賃をもらう」「空いている部屋を民泊サイトに登録する」といった行為は、立派な契約違反です。
見落としがちなのが「恋人との同棲」や「友人とのルームシェア」です。これらも事前に申告せず勝手に住まわせれば、たとえ利益を得ていなくても契約違反(無断転貸や定員オーバー)を問われます。契約者以外がメインで住む実態があればさらにアウトです。
最大のリスクは、退去させられるだけではありません。もし転貸した相手が火事や水漏れを起こした場合、契約者であるあなたが全責任を負いますが、住んでいる人が違うため火災保険が適用されず、巨額の賠償金を背負う恐れがあります。
★関連記事:名義貸し賃貸は違法? 賃貸契約後に考えられる問題点やリスク・注意点を解説
賃貸借契約を結ぶ際に確認すべきポイント
初めての契約では、たくさんある書類に圧倒されるかもしれません。しかし、ハンコを押してから「知らなかった」では済まされません。特に確認すべき重要ポイントをまとめました。
★関連記事:賃貸契約の契約書や重要事項説明書で確認しておくこととは?
契約形態(普通借家契約・定期借家契約)
賃貸契約には、更新できるタイプとできないタイプの2種類があります。ここを見落とすと「更新できると思っていたのに追い出された」という事態になりかねません。
- 普通借家契約:一般的な契約です。2年ごとに更新ができ、借主が希望する限り原則として住み続けられます。
- 定期借家契約:期間が決まっている契約です。「契約期間は2年」となっていれば、2年後に必ず契約が終了し、退去しなければなりません。大家さんと合意すれば再契約できることもありますが、基本的には更新がない契約です。
定期借家は相場より家賃が安い、礼金がゼロといったメリットもありますが、再契約できなければ引越しを余儀なくされます。物件情報図面に小さく「定借」や「定期」と書かれていることもあるので、長く安心して住みたいなら「普通借家契約」かどうかを必ずチェックしましょう。
解約する場合の通知と違約金
一般的には「退去の1ヶ月前まで」に予告する必要がありますが、物件によっては「2ヶ月前」という場合もあります。急な引越しで連絡が遅れると、住んでいない期間の家賃まで払うことになり無駄な出費になってしまいます。
また、「1年未満で解約すると家賃1ヶ月分の違約金がかかる」といった「短期解約違約金」の特約がついているケースも。長く住む予定でも、万が一の時にいくらかかるのか、契約前に見ておくことが大切です。
敷金と原状回復の負担割合
退去時のお金のトラブルを避けるために、敷金がどう扱われるかをしっかり確認しましょう。敷金は本来、家賃滞納などがなければ戻る預け金ですが、特約で「退去時に必ず〇〇円償却(差し引き)する」とあれば戻ってきません。
また、「ハウスクリーニング費用は借主負担」とあれば、どれだけ部屋をきれいに使っていても請求されます。これらが契約書に書かれている場合、署名すると同意したことになります。
「敷金ゼロ」の物件は、入居時の負担が軽い分、退去時に清掃費などを実費で請求されるのが一般的です。退去時に手元に戻るお金が減る、あるいは追加請求される可能性があるので、金額の目安を事前に把握しておきましょう。
更新料と支払うタイミング
長く住み続ける場合、2年ごとの更新費用も計算に入れておきましょう。一般的に「新家賃の1ヶ月分」の更新料に加え、火災保険や保証料の更新も重なるため、更新月は家賃の2~3倍の出費になることがあります。契約書に金額や条件が記載されているので、事前に確認して準備しておくことが大切です。
利用目的違反に該当する行為
一般的な賃貸物件は「居住用」のため、住む以外の目的では使えません。無断でサロンや事務所を開業したり、教室を開いたりするのは契約違反です。
特に副業での「法人登記」には注意が必要です。SOHO可の物件でない限り、勝手に登記することは認められません。自宅で仕事をする場合は、許容範囲を必ず大家さんや不動産会社に確認しましょう。
よくある質問
「賃借人」の読み方は?
「ちんしゃくにん」と読みます。
慣れないと「たいしゃくにん」と読んでしまいがちですが、それは誤りです。「賃料(家賃)を支払って借りる人」と、漢字そのままの意味です。一方、貸す側は「賃貸人(ちんたいにん)」と読みます。対義語としてセットで覚えておくといいでしょう。
なお、英語では「Tenant(テナント)」、会社契約なら「法人」が賃借人となります。これらも合わせて覚えておくと役立ちます。
賃借人と賃貸人の違いは何ですか?
賃借人は、家賃を支払って部屋を借りる人、つまり「借主」のこと。賃貸人は、部屋を提供して家賃を受け取る人、つまり「大家さん」のことです。
どちらも「賃」という字がつくので紛らわしいですが、自分が「借りる(借)」のか、相手が「貸す(貸)」のかで区別できます。契約書にハンコを押すときは、自分が「賃借人」の欄に名前を書くことを確認してください。
まとめ
賃借人とは、単に家賃を払うだけでなく、法律で手厚く守られた「住む権利」を持つ存在です。契約書の難しい用語も、正しく理解すれば自分を守る強力な武器になります。
日々の義務を果たすことは大切ですが、同時に不当な要求には毅然とNoと言える知識を持つことが、長く安心して暮らすための近道です。これから始まる新生活、わからないことはプロに相談し、納得のいく契約で素晴らしいスタートを切ってください。

監修者名
テクトピア編集部
資格一覧
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、賃貸住宅メンテナンス主任者、
少額短期保険募集人、土地活用プランナー



























